ここで温泉の効能というものに目を向けてみましょう。
経済的な理由で医師に診てもらえなかった昔の人は、よく湯治と称して温泉へ出かけていきました。病気、あるいは病後の体力回復に温泉の果たす効能は、昔からよく知られております。傷ついた鳥や動物が温泉で治癒した、という話は各地に伝えられており、「鹿の湯」とか「鶴の湯」「鷺の湯」「白猿の湯」などという名が現在も残っております。意志をもたない動物や鳥たちは温泉で治癒し、その効果を人間が知ったのです。
胃腸の名湯として知られるところをざっとあげてみますと、関東では、群馬県磯部温泉(重曹を含む強食塩泉)、四万温泉(石膏泉、弱食塩泉)、万座温泉(硫黄泉、ヒ素を含む酸性明ばん泉)、山梨県の西山温泉(硫黄を含む食塩泉)、東北では岩手県の夏油温泉(石膏泉、硫化水素泉)、九州では大分県の湯ノ平温泉(弱食塩泉)、や筋湯(単純泉)などがよく知られています。浴用のほか飲用のもあり、温泉を飲むことによって消化器の粘膜や分泌を支配している自律神経の緊張を調整し、消化器能を高めてくれるのです。
中風、動脈硬化、高血圧などには高温度でない硫黄泉、石膏泉、放射能泉、芒硝泉などがよい。血管の拡張、鎮静に効果があり、昔から「中風の湯」はぬるい湯です。最も有名な「中風の湯」といえば、長野県の鹿教湯温泉でしょうか。温泉療養所や研究所などの施設もそろっており健康保険もきくので人気の高い温泉です。
脳溢血のあとの療養にも温度の低い温泉がよいわけで、栃木県の板室温泉、山口県の俵山温泉の効能の高さも知られています。とくに俵山温泉はリウマチで歩行困難な方にも効く西の横綱級です。また静岡県伊豆の畑毛温泉や韮山温泉などもリハビリテーションの施設があり、神経マヒ、脳卒中の方の温泉療法、運動訓練に盛んに利用されています。
呼吸器の疾患にも温泉療法がとり入れられています。呼吸器病といってもいろいろありますが、温泉療法で主に効果があるのは慢性気管支炎、ぜんそく、肺気腫、咽喉カタル、鼻カタルなどです。入浴、陰陽、うがい、吸入などによって気管支の粘膜を溶かし、繊毛運動を助け、痙攣を緩める効果があります。呼吸器疾患に効くとして有明なのは須川温泉(岩手県)で、標高一二〇〇メートル。泉質は一種の強烈な酸性泉、三週間以上の湯治は禁じられているほどですが、ドライな空気、オゾンの豊富さも呼吸器疾患によい影響を与えているのでしょう。このほか長野県の中房温泉(硫化水素を含む単純泉)、新潟県の関温泉(食塩泉)なども呼吸器疾患の療養で知られております。
このほか「美人の湯」といって肌をなめらかにする群馬県の川中温泉や和歌山県の竜神温泉、不妊症の女性に人気のある山形県五色温泉、福島県熱塩温泉、新潟県栃尾又温泉など、病名にあわせて列記していくと枚挙にいとまもないほどです。