まず、ものを食べる、ということから考えてみましょう。私たちは習慣的に毎日食べ物を摂っています。食べた物がエネルギーとなって活動源となっていることは、だれでも、ただ何となく知っています。でも食べた物がどのような経路でどんな働きをしてくれているか、ということになると大抵の方は答えに窮してしまいます。
私たちは口から食べ物を入れます。舌の先で甘い、辛いを感知します。それと同時に、口の中で唾液の分泌が始まります。唾液は、歯によって咀嚼された食べ物をさらに溶解する役目を持っているわけですが、同時にまた毒消しの役目も持っているのです。唾液の中にある酵素やビタミン類が発ガン物質まで撃退してくれているのです。
唾液の力を借りて咀嚼された食べ物は、口の中で糖質に変わり、呑みこむと食道に下りていきます。その際、食べ物が肺のほうに行かないように気管支の道が自動的に閉鎖され、食べたものはきちんと食道のほうへ送り込まれていきます。もし慌てて物を飲み下したり、水を急に流し込んだりすると、気管支の自動ドアの閉まり具合が一瞬遅れてゴホンゴホンとむせるわけで、「慌てるなっ、もう一度やりなおせっ」と口のほうに押し戻してしまいます。人間の体の中というのは興味津々、実によくできているのです。
食道の長さは約30センチあります。食べた物が下りていくときも一度にドサッと落ちるわけではなく、キチンと交通整理が行われており、順序よく、段階的に、少しずつスベリ落としてくれるのです。食べた物はすべてエネルギー源となるものですから、取り扱いは慎重に、大切に行われているのです。
食べた物が食道の底に落ちてきますと、胃の入り口(噴門部といいます)のドアがまた自動的に開かれて、食べた物を胃の中へ迎え入れてくれます。迎え入れると、またすぐドアが閉められてしまい、食べた物が逆流しないように胃袋の中へ完全に閉じこめてしまいます。もし胃の中がまだ満タン状態であったり、極度に消化力が弱まっていたり、あるいは猛毒がはいってきたりすると、胃は怒って、「出ていけっ、胃で受け付けるわけにはいかん!」 と食道のほうへ押し戻してしまいます。これを嘔吐といいます。