【第1章-1-1】「手のほどこしようがない」と医者に言われて

大田区にお住まいのＳさん（３０）が、お母さんとご一緒にＺイオン研究所へおいでになられたのは、私の最初の本が出版されてから間もない昭和５９年１月９日のことでした。

あらかじめいただいた電話で、Ｓさんが重度の便秘症であることはわかっていました。お化粧で美しくつくろっていましたが、ひどいやつれようです。はっきり言って、そのとき、私にはＳさんの顔がふたつに見えました。ひとつは普通の顔もうひとつは死人の顔です。ソファーにすわっているのもつらそうに、ひじかけにもたれておりました。その日でもう３０日以上もお通じがないということでした。私はお母さんのお話をうかがいながら、「これはいけないな、助からないかもしれないな」 と思いました。しかし、私のＺ式健康法をぜひやってみたいということで相談にお見えくださった方に、まさかいやだとは言えません。進退きわまったという感じでしたが、そのうち、お母さんの熱意がそうさせたのでしょう、思いがけない方向に話が進展していきました。私はＳさんの親族になりかわって、主治医に会うことになったのです。

翌日、私はさっそく大田区のある病院に行き、主治医にお目にかかりました。Ｓさんの便秘症について、所見をくわしくお聞きしようと思ったのですが、医師は私の来意がわかると、ああダメダメというように首を横にふって、「Ｓさんだけは、手のほどこしようがありません」 と言われたきりでした。医師からも完全に見放されていたのです。医師にはとかく批判的な私でしたが、そのときばかりは、その主治医を非難することはできませんでした。残念ながら私も同意見だったからです。

どうしたものかとしばらく考えあぐねておりましたが、非情な医師の言葉が逆に私に腹をくくらせたようです。私もかつては医師に見放された人間です。ようし、Ｓさんの申し出をお受けして、できるかぎりのアドバイスをしてみようと決意しました。そうする以外にありませんでした。

Ｓさんのけたはずれにひどい症状について私が考えたことは、やはり便秘のもとは何かということです。便秘を解消するには、便秘のもとを治さなければなりません。そのもとというのは、イオンの不足による自律神経の失調です。胃腸のはたらきが悪いから食べ物からイオンがとれず、不足することになるのです。胃腸のはたらきがわるいのは、おなかにヘドロ（宿便）がつまっているため、消化ができないということです。この宿便をとらずしてどうして便秘を治せるのでしょうか。宿便をとって胃腸の消化能力がアップすれば、イオン不足は解消し、自律神経がはたらきます。そうなればもう便秘も自然に解消します。

私はＳさんに安心していただくために、あらましこのようなお話をして勇気づけたわけです。さらに、問題の宿便清掃について次のように説明しました。「この療法がＳさんにとって幸いなのは、がんこなおなかの宿便がみな水便になって排泄されるということです。水便ならば、胃腸に宿便がつまっていてもわずかなすき間から流れでてくれます。ですから、おなかのぐあいが楽になることも、後は時間との闘いです。辛抱づよくおつづけになれば、おなかの宿便は徐々にとれて胃腸のはたらきがよくなります。問題はただひとつ便秘など寄せつけないくらい胃腸のはたらきをよくしてやることです。それには、きれいにおなかの大掃除をしてやるしかありません。そしてイオンのお風呂によくはいること、そうすれば不足しているイオンを皮膚からも補いますから、自律神経は活発に働いてくれるようになります。大丈夫、きっとよくなりますよ」私の説明にどうやら納得されたようで、Ｓさんはこっくりうなずいてくれました。以下は、そのＳさんの手記です。